ガット、ストリングス

ストリングの種類による違い

ストリングの種類によって特性の違いを表現する方法として”軟らかい”とか”硬い”といった言葉を使います。これを力学的に考えた場合、 同じテンションで引っ張った時のストリングの伸び量が異なるといった現象になります。

ストリングのテンションと実際にストリングスが引っ張られて伸びた量をグラフに示すと左のようになります。仮に硬いと言われるストリングを直線S1、一方軟らかいと言われるストリングを直線S2とします。 同じテンションT0を得るのに初期からの伸び量はΔL1の矢印の始点とΔL2矢印の始点とそれぞれ異なります。同じテンションを出すのに柔らかいガットは固いガットよりもたくさんの距離を 引っ張って伸ばす必要があるということがこのグラフから分かります。 また定常状態(ラケットにボールが当たっていない状態)でのテンションT0からボールインパクトの時のテンションT1間のストリングの伸び量はΔL1 < ΔL2となることもこのグラフからわかります。 つまり軟らかいストリングほどボールインパクト時のストリング面のたわみが大きくなり、このときのボールを打った時の感触を柔らかいと感じることでしょう。

ストリングの硬さ・軟らかさを決める要素

ストリングの特性を決める要素として次が挙げられます。

  • ゲージ(太さ)
  • 構造(モノフィラメント、マルチフィラメント)
  • 素材(ナイロン、ポリエステル、ケブラー、天然素材)
近年、注目を浴びるようになったポリエステル系の材料を使ったストリングはナイロンを材料とするストリングと比較して同じテンションで引っ張った場合その伸びはたいへん小さいものです。 一方細かなファイバーを多数寄り合わせた構造を持つマルチフィラメントでは、公称のゲージ径よりも実際にテンションを保持する断面積が小さくなりゲージ径を細くしたことと等価だと考えられます。 ゲージ系の差異は当然細いものほど同じテンションで引っ張った時の伸びが大きく、軟らかいストリングと言えます。

モノフィラメントは弾きがよいといわれる一方でマルチフィラメントはボールホールドが良いとも言われますがこれも上のグラフから分かるようにボールインパクト時のストリングの伸び量の差異に依存しています。

伸び量の差異は時間軸で考えたときのボールとストリング面の接触時間の差異とも言えます。安価なモノフィラメントを使って、マルチフィラメントのようなボールのホールド性を出したい場合には ゲージ系を細くしたりテンションを落として張ったりすることである程度近づけることも出来るとも考えられます。

ポリエステルガットはテンションが低下しやすいと考えられていますが、これは同じ距離だけストリングが緩んだときにテンションの変化率がポリエステルのほうが大きいのがその理由となります。

ストリングの選定においては、例えば耐久力を求めるために太いゲージのものや材質がポリエステルのものを選んだり、ボールのホールド感を重視するためにマ ルチフィラメントを選ぶといったことが一般的な考え方だと思います。これまでの考察からゲージ径を変える事やテンションを変えることでそのボールフィーリ ングを大きく変える事が出来ることが分かりました。これによりガット選びの考え方の幅が広がったことでしょう。

メーカーが書いているガットの性能についてその表現を正しく理解すれば、自分が求めるベストなガット選びが可能となるでしょう。それからストリングの性能 を決めるもう一つの重要な要素であるテンションについても、正しい理解をしていれば自分に必要なテンションが高いのか低いのかも良く分かるはずです。

ストリングの重量

ガットの性能を決める要素には色々あります。例えば
  • 材質(シンセティック、ナイロン、ポリエステル、ナチュラル)
  • 構造(モノフィラメント、マルチフィラメント)
  • 断面形状(通常の円形のほかに、スピンガットと呼ばれる形状のもの)
  • 線径(ゲージ)
  • 表面のコーティング(チタン、カーボンナノファイバーなど)

意外に見過ごされがちなパラメータとして重量が考えれます。ラケットのバランス調整のために鉛テープを貼る事があると思うのですが、ガットの線径(ゲー ジ)を変えた場合やガットの種類を変えた場合には当然重量も変ってきます。その際張り上がりのラケットバランスには気を使っていますか。実際にはガットの 種類を変えたときにどの程度重量が違うか良く分かっていないことが多いと思います。ここにガットの重量を比較した一例を紹介します。

名称タイプ線径mm単位質量g
ポリプラズマポリエステル1.180.0014
Wilsonウルトラモノフィラメント1.300.00118
ルキシロン Zoloポリエステル1.150.0014
エクセルマルチマルチフィラメント1.300.00116

実際にラケットにガットを張ったときには上記単位質量に必要寸法分を掛けた重量が加わるることになります。一般的にはシンセティックのガットを張るとラ ケット重量は12gアップするとも言われています。ポリエステルガットを張ると14gアップに相当するのですが、この重量アップはナチュラルストリングと 近い値となります。

選手層でポリエステルガットがもてはやされているのは耐久性の他にガットの重量がポイントになっているのかもしれませ ん。ポリエステルガットは伸びが小さいために打ったときにガット面があまり大きくたわむこと無くその反対にボールを大きく潰すことができるといわれていま す。ラケットが重いほうがよりボールを潰すことが出来ますので、ポリエステルガットの特性はまさにうってつけとも言えそうです。

ストリングの寿命(張替え時期)

ストリングの寿命は張ってから3ヶ月とか、四季の変化によって変えるべきだとかいわれています。確実に言えることは、「ガットが切れた時が寿命」と「打球感が合わなくなったとき」の二つだと考えて 良いのではないでしょうか。ここでは「打球感」について説明します。

テンションダウンによる打球感の劣化

打球の衝撃によってストリングは相当大きな引張応力を繰り返し受けることになります。繰り返し受ける応力によってストリングそのものは劣化して行きます。多くの樹脂は水分や紫外線によっても劣化して行きます。 張り上がってからの時間が経つにつれて保存環境によってもストリングスは劣化していきます。その劣化はテンションの緩みといったことで実感されるでしょう。

使用頻度や打球時のガットへのストレスの度合いそして経時変化によってテンションが下がってくるのはもちろんストリングそのものがもつバネ性能も変化して いきます。張り上がりの良い打球感から変化して打球感に多少の違和感を覚えるようになればその時点が張り替えのタイミングと考えても良いでしょう。 打球感が悪いということはそれがプレーへいくらかの影響を及ぼすことにもなります。打球感の変化を打ち消そうとするあまり無理にボールを打とうとして本来 のあるべきスイングフォームを崩してしまうかもしれません。 ガット張替え期間の3ヶ月を敢えて実行する必要は無いでしょう。もっと早いタイミングで張り替えた方が良い場合もまたその逆もありうるでしょう。

ストリング同士の摩擦によるもの

張りあがったばかりのストリングの表面は非常に滑らかで、ストリング同士が交差する部分での摩擦は小さいものです。ストリングの縦糸または横糸を指で容易にずらすことが出来ますし、指を離せばまた自然と元の位置に戻ることでしょう。 ボールインパクトの衝撃を繰り返し受けることでストリング表面は荒れてきてこれがストリングが交差する部分での摩擦を大きくしていきます。ボールインパクト時にはボールの勢いによって一本一本のガットは伸びようとしますが、 実際にはストリングは縦横に編まれているためにそれぞれのストリングの交差する部分での摩擦抵抗を受けることになります。赤矢印がボールインパクトによってストリングが伸びようとする力、 これに対して青矢印がストリング同士の摩擦で発生する抵抗力を示しています。

新品のガットも僅か数時間のプレーで縦糸と横糸の摩擦は大きくなりボールを打った後のガットのズレもそのままでは戻らなくなってきます。このことはボー ルインパクトでストリングが伸びようとする動きをこの摩擦が抵抗となってスムーズなガットの動きを妨げることになります。 はじめのうち良好と感じた打球感も、ものの数時間でずいぶんと異なったものに感じるかもしれません。ボールの食いつき良いセッティングであったとしてもそ の効果が発揮されるのは僅か数時間かもしれません。

ガットの寿命を延ばすアイテムとしてガット表面の潤滑剤がいくつかのメーカーから販売されています。これは主にシリコンを成分とするものであ り、ガット同士の摩擦を小さくするものです。新品同様とまでは無理としても、ストリングがずれるときそして戻に戻ろうとするときはある程度スムーズになる でしょう。ボールインパクト時のフィーリングもまた初期に近いものに回復することでしょう。

ガットメーカー各社からはある種のコーティングを施すことで打球感の耐久性を増しているものもあります。 最近流行のポリエステルガットにおいては表面が強固で荒れにくいためか、ガット同士の摩擦力が大きくならないようです。つまりガット同士の摩擦が増すことによる打球感の変化が少ないため、ある意味長く使えるストリングかもしれません。

プレー頻度やダブルスまたはシングルスの種目、スイングフォーム等によっても随分違ってはきますが、ストリングの本当に美味しい期間はほんの数時間なのかもしれませんね。

賞味期限は短く、消費期限は長いとも言えますね。

ストリングマシン

ラケットにストリング(ガット)を張る際に欠かせないのはストリングマシンですが、有名ブランドによるマシンはとても高価でなかなか手が届きません。 比較的安価で手に届く範囲で探すと次の2社をピックアップすることが出来ました

Eagnas

アメリカの会社ですが、日本にもオフィスがあり日本語での対応も可能だそうです。価格は大変安く魅力的ですが当然海外から製品を輸入するので物流のリードタイムが発生します。 日本にオフィスがあるといっても技術的なサポートはUSの本社とのやりとりになるかもしれないという不安もあります。 実際に購入された方の情報はインターネットの検索サイトから関係の記事を見つけることが出来るでしょう。

スピンジャパン

日本の会社ですが上記Eagnas社のホームページでも比較対象として取り上げられている会社です。 以下にスピンジャパンの特徴を列挙します。

  • 設計を自社で行っているので、トラブルに対して改善の方法が迅速に判断できる。マシンのトラブルの時間を最小限に出来る。 大切な試合前にストリングを張替えようとしてトラブルが起きたとしても何らかのサポートの情報が得られるのはとても安心できます。
  • スピンジャパンのマシンのコンピュータ式は安価でありながらも「電動式」とは異なりテンションのプリセットは勿論、引っ張る速度の調整、 プリストレッチやノット時のテンションアップもコンピュータでコントロール可能。同じ価格帯で他社の製品は電動式のことが多い。 電動式は指定テンションまで文字通り電動で引っ張るのみです。
  • 100万円近くするマシンも基本的な構造は同じ。テンションの正確さを保障するための機械自体のガタや剛性はほとんど変わらない。 ゆるみの無い確かな張りあがりはマシンの価格性能に拠るものではなく、張り手の細心な作業によるところが大きいとの事。
ストリングの張替コストを下げながら、常にストリングが出来るだけ新しい状態でテニスをすることはきっと上達の近道になることでしょう。

ガット潤滑剤

ガット潤滑剤というものが市販されています。ラケットに張られたガット表面に塗布するその製品に書かれた効果は、「ストリング本来の性能を引き出す」「ストリングの磨耗を防止する」 「ホールド感が良くなる」と言ったもの。ガット表面の潤滑性を良くすることでガット同士の摩擦は小さくなり、ボールがガット面に当たり、一瞬ガットがたわんだときに起こるガットのずれ動きを、 この潤滑剤のおかげで滑らかにすることで、ガットが新品と同様の特性を持続させるというものです。

ガットをラケットに張りたての時はガットを指でずらすことが簡単に出来ても、ボールを打っているうちにガット表面はだんだんと荒れてきて、ついにはガット同士がぎちぎちに食いついてガットを ずらすことが困難になってきます。打球した時の感覚がラケットを使用するにつれて変化していくのは、テンションの変化の他にガット表面の摩擦状態の変化も影響しているのです。 この表面の摩擦状態を新品同様に滑らかにすることで、張りたてに近いフィーリングを取り戻すことが出来るのです。 近くのショップでガット表面潤滑剤が手に入らない場合はホームセンターでシリコン系潤滑剤を見つけて代用することが出来ます。テニス用として売られている製品もその成分は シリコン系の潤滑剤ですので同様の効果が期待できます。

ストリングにおけるガット潤滑剤の利用

ガット潤滑剤にはもうひとつのメリットがあります。それはガットを張る前にガット全体に塗布することで、ガットを張っている途中で生じる摩擦を出来るだけ低くすることが出来ます。 ガットを張る間にガットは、グロメットと呼ばれるフレームにストリングスを通す穴や、横ガットが縦ガットの間を縫って通す間に相当の摩擦を受けています。摩擦の大きい状態でストリングマシンでガットを引っ張っても、 指定したテンション通りに均一なテンションをガットにかけるのは難しいものです。 表面潤滑剤をあらかじめガットに塗布することで、表面の摩擦は大変小さくなりガット張り時の摩擦も減らせますから、安定したテンションで張ることが出来るでしょう。ガット潤滑材を使ってストリンギングを行うことをアピールしているショップもある程です。

目直しするとテンションダウンする

ストリンギング(ガット張り)の終わりに目直しをすることがあります。

上の図のように張り上がった時にクロス(横糸)がたわんだようになっているものを、真っすぐに整えることを目直しとも呼ばれています。クロスを張る際に先に張られているメイン(縦糸)の影響のためクロスがたわんだ状態になりやすいものです。(ラケットをトップ側から見た時に上の図のようになりやすい)

このままボールを打ち続けていれば、いずれクロスも真っすぐに戻っていきますが、その時にテンションの変化が発生し打球感の変化をきらって、目直しをした方が良いでしょう。しかしこの目直しそのものが、マシンで設定したとおりにストリングのテンションがかかっていない原因になっているのです。

目直しする事によって実はストリングスの長さが短くしているのです。つまりストリングスが縮むことになるのです。ここでは既に張り上がった状態ですので、ストリングスが縮む事はつまりストリングで発生していたテンションが下がることになるのです。ストリングスが縮みきってしまえばテンションはゼロになります。目直しによって変化するストリングスの長さにもよりますが、目直しによってテンションが下がることは明らかです。

ポリなどの固いストリングスでは伸び率とテンションの感度が高いため、少々のストリングスの縮みもテンションダウンに大きく影響します。設定テンションに出来るだけ近く張り上げるためには目直しの量を出来るだけ小さくなるように、クロスを張っていく必要が有ります。

 

パンツゴム効果によるテンションロス

パンツゴム効果というのが有ります。ズボンのウェストにゴムひもを通そうとした時に片側の穴から出したゴムひもを引っ張った時に、ゴムひもがウェストの中を通る間の摩擦のために反対側の穴から出るゴムひもがなかなか動かない現象の事です。

ストリンギング(ガット張り)にも同様の事が起こりえるのです。

クロス方向のストリングスを張る時に、ストリングをメインストリングスの間を縫うようにして通します。この時に相当の摩擦力が発生します。マシンでテンションをかけても(引っ張っても)マシンから遠くなるに従って実際にストリングに働くテンションは低下するのは、パンツゴム効果と同じです。 ストリング表面がもつ摩擦係数の大きさにも、メインストリングスのテンションの大きさにも、このパンツゴム効果の大きさは依存してきます。

テンションロスを出来るだけ抑えるようこのパンツゴム効果をキャンセルするためには、ストリンギングに一工夫を行う事で可能となるのです。

(パンツゴム効果=Pants rubber effect *筆者が命名しました)


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マシンにセットしたテンションどおりにはガットは張れない

どんなに高級なストリンギングマシンを使ったとしても、マシンでセットした値どおりのテンションで張り上げていけるかどうかは、作業するその人の腕次第である。

テンションロスの原因はその作業そのものにある。ここに一つの例を紹介する。
たとえばこのような状態でストリングスをマシンで引っ張っているとしよう。マシンの引っぱり方向に対してフレーム内のストリングの方向とは角度がついているのが分かる。
マシンで50ポンドの数字を表示していれば、フレーム内のテンションは50ポンドだと思うかもしれないが、そうとは限らない。次の実験を見てみよう。

凧糸の途中に輪ゴムをつないだ物をストリングスの代りとする。微妙なテンションの変化もゴムの伸縮でよく分かる。グロメットに相当する部分にはステンレスのパイプを固定して、パイプの中を先ほどの凧糸を通している。凧糸の先は鉛のおもりで一定のテンションがかかるようにしている。このときの輪ゴムの長さをノギスで測っておいた。

次にこの実験セットを90度回転してみよう

グロメットに対して真っすぐに引っ張ることになる。すると輪ゴムの長さは先ほどよりも伸びていることがわかる。これはグロメットを通るときのストリングスの摩擦が小さくなり、それだけフレーム内側のテンションが多くかかるようになり、その結果輪ゴムが先ほどよりも伸びたという事が考えられる。

実験ではこの程度の伸びの差だったが、実際のストリングスではストリングスとグロメットの摩擦は大きくもなり、またストリングス自体の固さも影響すると考えることができる。

ストリングスマシンの構造上、どのグロメットに対してもストリングスに角度を付けずに真っすぐに引っ張る事は出来ない。このような機械的な挙動を把握した上でテンションロスを低減するための張り方を工夫しながら作業していく事で、テンションロスを小さくし、安定した張りが可能となると考えるのだ。

このようにストリングスをフレーム内側に対して真っすぐに引っ張った時、フレーム内のテンションはどうだろうか。グロメットで起きる摩擦は小さくする事が出来るだろう。それ以外にもテンションロスの原因はまだ残っている。

それについては別の機会で説明しよう

 

テンションとバネ特性(2)

前回は簡単な科学実験で一般的な引っ張りコイルばねの特性について勉強しました。余談ですが、圧縮したときの力を使う圧縮コイルばねというのもあります。今回は引張コイルばねをラケットのストリングに当てはめて、初期張力とばね特性について考えていきます。

ここでいう初期張力というのは、ストリングを交換する際に何ポンドで張るといったテンションと考えてください。テンションはラケットフェイスの中でストリングスの軸方向に常に作用しています。フレームの形があり、テンションに対する抗力となって全体が釣り合っている状態になります。一方面圧というのはストリング面に対して垂直方向の力になります。一般的に面圧という尺度は、ストリング面をある一定のたわみ量を与えたときの反発する力とされており、これは測定系によって値が異なってきます。

昨日も説明したように、初期テンションがかかっている状態では、ストリング面はある一定面圧以下ではストリング面はたわむことはありません。

P<p0 のとき X=0

面圧がp0を超えて始めてストリング面はタワミ始めます。その時のたわみ量は(P-p0)=kxと近似することが出来るのですが、ばね定数kはストリングの種類によってことなり、また非線形にふるまいますが、それについてはまた別の機会に詳しく説明します。ここでは、力が大きくかかればかかるほど、ストリング面のたわみ量が増えると単純に考えておいてください。

ストリング面のばね特性は、面圧がp0以下の範囲では板のように振る舞い、p0を超えるようになてバネとして弾性のある状態として振舞うことになります。

racket

この様子をグラフで示すとこのようになります。

ボールとラケットの相対速度が小さい場合は面圧Pも小さくなり、ストリング面はたわむことがありません。ストリング自体の反発性能が発揮されていない状態とも考えることが出来ます。一方相対速度が大きい場合、相手からのボールスピードが早い場合や、自らのスイングスピードが大きい場合、面圧がp0を超えればストリング面はタワミ始め、ストリング本来の反発性能が生かされてくるのです。

ストリングの初期テンションに付いての考え方にはいろいろあると思いますが、ここではストリング面をバネとして使うのか板として使うのかを決めるp0の位置をどのように設定するのかで判断していくかを目安にして考えて欲しいと思います。具体的に説明すればテンションを低くすれば遅いボールからまたはゆっくりのスイングスピードからストリング面のばね特性を発揮させたい時に有効と考えることが出来るでしょう。ネットプレイヤーやーなどでボレーを多用する場合にはテンションを低めに設定し、どのようなボールに対してもストリング面のバネとしての特性を発揮できるようにするという考え方ができるしょう。相手のボールの勢いをつかって、ストリング面のばね特性も有効に使いながら、スピードのコントロールのきいたボレーが打てることでしょう。

一方、テンションを高く設定した場合にはストリング面をバネとしての特性を発揮するにはある程度のボールとラケットの相対速度の大きさが必要となります。ボレーのような状況で相対速度が小さくなった場合には、ストリング面は板のように振る舞い、思ったほどボールの勢いが乗らない事にもなります。ネットプレーにおいて相手からの突き玉の勢いを殺すにはストリング面が板のように振舞うのは効果的なのかもしれません。そして、ラケットとボールの相対速度が大きい場合、ベースラインでボールを打ち合うような状況では、ストリング面はしっかりとたわみストリングの持つばね特性も十分に発揮することができるでしょう。

ストリングの振る舞いである「板」と「ばね」の二つの特性をどのようにプレーに使っていくかを考慮しながら、ストリングスの初期テンションについて検討していく必要があることがお分かりいただけたと思います。これはプレースタイルにも影響するでしょう、またその人がもつラケットのスイングの特徴によっても大きく影響していきます。重要なことはラケットやストリングによってのみ適正テンションを決めるのではなく、道具の特性を上手につかってどういったプレーをするか/したいのか、ストリング面を板として使うのかバネとしていつ使いたいのかなど、その考え方によって決まるのです。

テンションとばね特性(1)

ストリングスのテンション設定の大小について考える上で、初期テンションがばね特性にどのように影響を与えるかについて説明します。はじめに子供とおこなった科学実験の様子を紹介します。

弱い樹脂製のバネの片側を壁に固定し、もう一方にコップをぶら下げます。そこにおもりであるビー玉を入れていき、その個数とコップのそこがどこまで下がっていったかを記録します。6,8,10,12,・・・とほぼ等間隔に並んでいる様子がおわかりになると思います。実際にはビー玉の大きさに大小いろいろあり、厳密には等間隔になっていないのはご愛嬌ということで。ここでもう一つ注目したいのが「0」の位置です。このラインはビー玉を4個入れるまで変化しませんでした。5個目からコップは下がり始めます。

ばねばかりなどのバネを想像したときに、上図のように吊り下げたおもりの重さに比例してバネは伸びることになります。これは上の実験で言う6~の現象になります。実際にはビー玉を4コ入れるまではこの比例関係がみられなかったのですが、これは次の事によるものでした。

バネは初期状態(無負荷)でもテンションがかかっており、これはバネが密着していることで釣り合い状態になっています。ビー玉を4個いれたぐらいで、この初期テンションとほぼ釣り合いそれ以降は、ビー玉が増えるごとに(P-P0)=kXの比例関係を保ちます。

これは吊り下げるおもりの重量によってバネが、長さを変えない「ひも」の状態と長さが変化する「バネ」の状態という二つの相を変化すると言ってもよいでしょう。

この原理を次にラケットのストリングスのテンションに当てはめて考えてみましょう。(つづく)

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